■本に出てくるおいしい食べ物 P10


▼カッフェー・オーレー・オーリ。

『ベッドでのむ牛乳入り珈琲 『ベッドでのむ牛乳入り珈琲』(瀧澤敬一/暮しの手帖社)

これを言うと、フランス人の鼻がますます高くなるのは目に見えているので、あんまし言いたくないんだけど、やっぱり今でもフランスは文化の中心だと思うことがあります。 本書が発表された頃(昭27)は、今よりずっと、そういう風潮があったでしょうね。 ─フランスの衣食住で、あまり気のつかない茶飯事を拾つて見たのがこの一冊である。(あとがきより) と言う通り、実際に暮らしてみて分かるフランス生活のこまごましたあれこれを綴ってあり、今読んでも非常に面白いです。そんなに昔のこととは思えません。知的で、時にフランス語単語まじり、「フランスではこうなんだよ」と、ちょっと自慢っぽいのもイイ(笑)。これを読んだ当時の人は、どんだけポーッとなったことでしょうか。 タイトルは、流行歌の一節ですって。 ♪ねどこでのむ牛乳入りのコーヒー  菓子もあつたかい、クロアッサンも一所だ  あヽなんてうまいんだろう、こんちくしょう 「ぴんぴんして居ながら、ねどこで、カッフェー・オーレーをのむことは、奥さん連中にとつては人生至上の幸福であるらしい」です。でもそれは女中があってこそで、「女中なんか雇えない世の中だから」云々と書かれていますが、最近のフランス事情はどうなんですかね。 ちょびっとでもフランス好きで、森茉莉さんのエッセイに出てくるフランスエピソードを暗記してる向きには、間違いなく楽しい本です。
→コーヒーつながり
→寝台つながり
→牛乳つながり


▼まさに。

作家のかくし味 『作家のかくし味 文春文庫ビジュアル版』(万真智子:編 佐伯義勝:写真/文藝春秋)

まさに「本に出てくるおいしい食べ物の本」です。文庫だけど、ぎゅっと詰まってます。 熟読はしなくても、鞄に1冊、車に1冊、入れておいて、空いた時間に好きなところを飛び飛び読むのに適した本です。 第1章は現代作家のもうひとつの味わい方。存命(当時)の作家さんの、小説に出てくる食べ物の、レシピ・それが出てくる場面・それに関するエッセイ。 第2章は、文豪をとろけさせた老舗の菓子、第3章は名作を彩る不朽の美味。ってことで、物故作家の小説の中に出てくる菓子や料理のレシピと、それが出てくる場面を収録しています。 写真も素晴らしいので、夜中に読んじゃダメです。悶絶必至。


▼名編集。地味だけど。

もの食う話 『もの食う話 文春文庫』(文藝春秋編/文藝春秋編)

文藝春秋さん編のアンソロジーって、なんか地味なんですよね~。ほら、コレもそうでしょ? コレ→ミニ特集・人間の情景。 地味だけど、シブイし、さすがなんです。 本書も、ありがちな感じに「食前酒」に始まり、「前菜」「主菜」「サラダ」「デザート」、「食後酒」に終わるというメニュー風の章立てですが、「食前酒」には堀口大學『シャンパンの泡』、「前菜」には夢野久作『一ぷく三杯』、永井荷風『妾宅(抄)』、「デザート」には森茉莉『ビスケット』などなど、ニヤリとせずにはおれぬラインナップです。 水木しげるの漫画の抄もあるし、澁澤龍彦『グリモの午餐会』も、吉田健一 『饗宴』も入ってるんですよ。おぉ。 『饗宴』、何度読んでも笑える。 怖い「食」の話も含みますのでそれは要注意。全31編。 本書は古本屋ならどこにでもあります。もしも地味過ぎて見逃しておられたら、お安く入手してください。「アンソロジー好き」の「食いしん坊」へのささやかなプレゼントにも最適!


▼ピクルス入りチョコレートサンド。

心はチョコレート、ときどきピクルス 『心はチョコレート、ときどきピクルス』(ステファニ 亜田史訳/筑摩書房)

13歳のパリジェンヌがつづった「真実の記録ノート」。思春期の女の子の思いが率直に赤裸々に書かれていて、やっぱりオナゴにおすすめです。読んでいてなつかしいこともあり、照れくさくて困ることもあり。すっかり忘れていた思いに出会って面食らうこともあり。親に怒られて納得行かなかった気持ちなんて、久しぶりに鮮明に思い出しました。そうかと思えば、大人らしく真理を言い当てていて感心することもあり。まさにあの、大人に近づく最後の子供の季節が詰まっています。 大人の想像する少女生活とは違う、ほんとの少女生活は、読んでいて刺激的です。しかも、パリジェンヌですから、フランスの少女期ってどんなんだろう? フランスの親子関係ってどんなんだろう? という好奇心も満たされます。 作中にたびたび登場するのが、ピクルスとチョコの組み合わせ。うーん! それはおいしいのかしら!? 彼女はそれをサンドイッチにもしていました。 「ピクルスとチョコレートをはさんで、サンドイッチのかたっぽにカラシをぬって、二つに切ったトマトをそのなかに入れ、ぐっとおさえた」。3枚重ねですって。う、うまいと思う? ラスト近くで、彼女はなぜそれが好きなのか、気付いたと言います。「ときに酸っぱくて、ときに甘い」人生に似ているから好きなんだ、って。なるほどね。私も人生に似たサンドイッチを味わってみようか、そう思いました。
→日記つながり
→チョコつながり


▼ごちそうはいつも山盛り、なのに。

毒味役 『毒味役』(ピーター・エルブリング 鈴木主税訳/早川書房)

16世紀イタリア。貧乏で貧乏で、幼い娘ともども餓死するしかないと、思っていたところへ通りかかった残虐な領主の毒味役として召し抱えられる男の話です。 領主はあちこちで恨みを買っていて、常に毒殺される危険があります。毎回、豪華な料理がてんこもりですが、毒味役は心臓ばっくんばっくんで、美味を楽しむどころではありません。毒で死ななくても、領主の気分を損ねて殺されたら終わりです。 しかも娘は器量良しで、しょーもない男にちょっかいだされないか心配だし、行く末もなんとかしたらなあかんし、主人公には悩みがいっぱい。気の休まるひまがありません。陰謀渦巻く中を無い知恵しぼって、手探りで、必死に生きます。かっこよくはないです。泥臭い生き様です。彼がクールで、領主がもう少しシンパシーを感じる人なら、もっとワクワクしたかもしれませんが(ごめん)、守るべき者(娘)がいるから、クールになってる場合じゃないのね。とにかく必死。傑作とは申しませんが読ませます。 分類が難しそうな小説で、早川書房さんは何文庫に入れるつもりなのか、楽しみです。 (※後書きは、先に読んじゃダメです。ざっくり結末にふれている1文があります)


▼はっきり言って、全部食べたい。

4時のオヤツ 『4時のオヤツ(単行本版)』(杉浦日向子/新潮社)

なるほど、そうだなーと思います。オヤツって、3時じゃなく、4時ですよね。口さみしいと言うか、ものさみしいと言うか。ちょっと、なんかつまみたい。 全33編。 それぞれにおいしそうな食べ物の出てくるミニストーリーです。つながりはなく、いろんなシチュエーションの1シーンを短く切り取ってあります。会話が主のシナリオ風。夫婦の会話や、親友の会話、姉弟の会話などなど。その場の空気をズバリ表現するのが、さすがに大変お上手です。 舞台は東京で、食べ物もほぼ東京のもの。味まで説明してくれる時もありますが、「ほれ、草餅あるよ」「あたし、黄な粉の好き」程度にしか言ってくれない時も多いです。でもね、写真が雄弁に語ってるから、いいの!! 柳屋のたい焼き、梅むらの豆かん、米久の稲荷寿司、長命寺の桜もち、山田屋まんじゅう…。あ~、全部食べたいよ。 文庫になったようですが、装丁も可愛いし、単行本がいいんじゃないかな~。
『ごくらくちんみ』の姉妹編だそうです。それも読まねば。


▼料理小説ってヤツは!

至福の味 『至福の味』(ミュリエル・バルベリ 高橋利絵子訳/早川書房)

帯(裏表紙側)にはずいぶんものものしい賛辞が載っていますが(「類い稀な小説」とかね)、単純な話です。 いままさに死にかけている料理批評家が、人生における至福の味は何だったかと考えるのです。 彼は人生のいろんなシーンで食べたものを思い出していきます。でも、あれでもないし、これでもない。人生で一番の、至福の味が何だったかを思い出せなくて、煩悶します。 その合間合間に、語り手を替え、彼の人となりが語られますが、これがサイテー。自己中心的で、家族にも愛情はない。関心があるのは美味のことだけ。ただ美味との向き合い方だけは真摯。 彼が死の床で思い出そうとする、究極の「あの味」。それはもちろん気になりますが、そこに至るまでにさんざん出てくる数々の美食がたまらんです。ほんと何なの、料理小説って! 「最後の晩餐の作り方」も、「彼女はいつもおなかをすかせている」も、「大切なことはすべて食卓で学んだ」もなぁ。いつもやられちゃいますよ。
あ、問題の「至福の味」については、ひとこと。私はたまにはマックも食べたい、ただの食いしん坊でよかったな、と思いました。うむ。


▼アヒルのグラタン皿で焼くグラタン。

グラタンおばあさんとまほうのアヒル 『グラタンおばあさんとまほうのアヒル』(安房直子:作 いせひでこ:絵/小峰書店)

安房直子さんの作品には、おいしそうな食べ物がたーくさん出てきます。ジャムに、いなりうどんに、花豆。この『グラタンおばあさんとまほうのアヒル』もそんな美味童話の一つで、小さい頃に読んで、もだえた方は多いのではないでしょうか。 グラタンおばあさんは毎日大好きなグラタンを作ります。とろりとしたホワイトソース、ふうふう言いながら食べる、熱々のグラタン。たまらん。 これはしかし、おばあさんの話ではなく、おばあさんが使うグラタン皿の模様の、アヒルのお話です。言わば、「グラタン皿の模様のアヒルの冒険譚」ですよ。イイわ~! アヒルはちょっとした魔法が使えます。(アヒルが魔法で出してくれる見事な栗を入れたグラタンが最大羨望ポイントです。)でも、おばあさんがその魔法に味を占めて、すっかりなまけ者になってしまったことに腹を立て、アヒルは家出してしまうのです。 グラタンもおいしそうだけど、アヒルもかわいい。アヒルの旅も楽しい。ハラハラしたり、ホロリとしたり。なるほど、子供心に深ーくアピールしそうな名作です。 ※「グラタンおばさんと魔法のアヒル」として、「夢の果て 講談社文庫」に収録されています。
→ミニ特集・お料理絵本


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