■今日の一押し P10


▼ロマンチック生活のレシピ。

アリゼの村の贈り物 『アリゼの村の贈り物』(高柳佐知子/河出書房新社)

子供心をずっと忘れないでいる作家さんにはいつも感心させられます。高柳佐知子さんは、乙女心を忘れない方です。 むかーしむかし、いろいろ妄想しませんでしたか? こんな家に住んで、こんな髪型にして、こんな洋服にして、こんなお菓子を作って、お茶会をして、プレゼントはこんなんで、小箱にはこんなものを入れて、とか。 オナゴが少女の時から夢見るロマンチックなライフスタイルがここにあります。ロマンチックを現実にするレシピが紹介されているのです。ハイウィロウ村に住む人々の生活として、イチゴ摘み、お茶会の招待状、花の冠、夜更かしの夜食などなど、そのこしらえ方やレシピが高柳佐知子さんのほんわりした絵とお話で説明されます。なんとかさんのしているエプロンのつくり方や、マフィンのレシピなど、現実的なものの中に、「風の集め方」なんていう夢いっぱいのものもあります。いいなぁ。「今日は風を集めに行きましょう」って、そんなふうに育てられたかった! 期待を裏切らない高柳佐知子味。モノクロなのが惜しいです。
→ミニ特集・どこに住む?


高柳佐知子さんと言えば、こんなんもあります。
『エルフさんの店 ファンタジック・ショップ』(高柳佐知子:文と絵/学研)
オナゴにとってのクラフト・エヴィング商会とでも申しましょうか? 【少女の空想する楽しいお店】の数々を高柳佐知子さんが本にしてくれました。確かにこんなお店を開きたかった乙女心。


▼変わっています。

飛ぶ紙―ベルナール・フォコン写真集 『飛ぶ紙―ベルナール・フォコン写真集』(ベルナール・フォコン 久保木泰夫:編集・翻訳・構成/PARCO出版)

写真というのは、いろいろな方法で可能性を試されている芸術だと思います。色を変えたり、連続写真にしたり、接写したり…。被写体の特殊性を試すこともあるでしょう。 さて、ベルナール・フォコンですよ。御存知でしょうか? これは挑戦されている写真集だと思いました。言葉につまります。 思い出や、自分の想像の中の風景を写真に撮る時、どうするか? 普通は、それを探すんじゃないでしょうか。テーマとして探し続けて、少しずつ近付いていくんじゃないでしょうか。ベルナール・フォコンは「思い出を作っている」、のだと思います。「想像の風景を作っている」、のだと思います。多分。 舞台となる野原、海、部屋にいるマネキン人形。美しい少年とマネキン人形との組み合わせ。そんな写真。書き割りのように登場した人形の、無機物と有機物の中間とも言える存在感と、生身の少年の組み合わせには一種のショックも感じます。 「ぼくは写真とマネキン人形を同時に発見した」「本書はフォコンの初期から現在に至るまでの夢と熱狂を写真と文で綴った写真詩である」(帯より) 一見の価値があります。絶対。
→人形つながり


▼その通りだ。

わるくちのすきな女の子 『わるくちのすきな女の子』(安房直子 林静一:絵/ポプラ社)

安房直子さんの童話は、一読すると忘れられなくなります。特に、「もの悲しさ」「ものさびしさ」というものは、彼女の鞄の底に必ず入っていて、好きな時に好きなだけ使えるようです。 読者は胸をおさえて小さな痛みがおさまるのを待たなければなりません。 本書「わるくちの好きな女の子」は、悲しさよりも、激しさを秘めた物語だと思います。主人公は悪口を言うのが好きな女の子。悪口を言うと、女の子の胸の中で赤い火花がパチパチと燃えるのです。彼女はあとからあとから面白い悪口を思い付いて、それを誰かに浴びせるととても良い気持ちになるのです。…いかがです? ここのところ、大人でもちょっとぎょっとしますね。ドキっとさせられる童話だと思います。 女の子は魔女にも悪口を言い、鳥にかえられてしまいます。さて、予想通りには参りませんよ。彼女は負けません。鳥になっても花や動物の悪口を言い、わるくち鳥と呼ばれます。魔女を探して、元の姿に戻ろうとします。ここからは詳しくは書かないでおきますが、彼女がどんな状況にも負けない強さを持っているところに、安房直子さんの童話の深みがあると思うのです。

ラスト近く、彼女は亀に言われます。あんたの胸の中のかまどの火を消すように、と。消すことができないならせめて小さくするように、と。どうやって? と尋ねた彼女に亀は答えます。(書いちゃっていいですか? じゃ、一部だけ) ─いっしょうけんめい、がまんすることだねえ、(後略)
そうだねえ! ほんとにその通りだ。
林静一さんの挿絵も嬉しいです。

※詳細不明ですがオンデマンド版があるようです。当店在庫はポプラ社1990年。
→変身つながり


▼ 言わずにおれぬー。

天使 Der Engel 『天使 Der Engel』(佐藤亜紀/文藝春秋)

帯は「第一次世界大戦前夜、天賦の<感覚>を持つジェルジュは、オーストリアの諜報活動を指揮する<顧問官>に拾われ、その配下となる」「堕天使たちのサイキック・ウォーズ」。 世界史の好きな人も、諜報小説が好きな人も、超能力モノが好きな人も、みな楽しめるでしょう。 ヨーロッパ史(第一次世界大戦)の影では超能力者たちが暗躍していたかもしれない、いや、していたに違いない、私が知らなかっただけなのね、と思わせてくれる小説です。

主人公は独りの青年です。(この手の男を描かせて巧いのは何故女性作家なのだろう?と考えずにはいられません。)才能を見出され、拾い上げられ、磨かれ、育てられる。選ばれし者、特殊能力、他とは違う存在であること。これらは、じつはスポーツ漫画や少女漫画で親しんだ伝統でもあります。そのエンターテイメント的な要素をふんだんに取り入れながら、著者が著者なので、その筆致はあくまで緻密、重く、充溢感が息苦しいほど。この息苦しさも快感に変えられるマゾヒスティックなまでの小説好き、本好きには心底オススメです。 佐藤亜紀さんの小説では、自尊心に光が当てられることが多いように思います。時にその重みに曳かれ、重みを快とし、時には軽々しく扱ってみせる登場人物たちの心のありようとともに、著者が狂いなく練り上げた物語から目が離せなくなります。読後はソッコーで、『天使』の小説世界の短編集『雲雀』を注文しました。
→超能力つながり
→天使つながり
→スパイつながり


▼好事家に。

天使のパヴァーヌ 『天使のパヴァーヌ』(沢渡朔、舟崎克彦、宇野亜喜良/白泉社)

沢渡朔:photo 舟崎克彦:text 宇野亜喜良:painting。って、どういうこと?
本を開くと、それがわかります。沢渡朔さんの撮った写真に、宇野亜喜良さんが羽根やその他いろいろを描きいれ、舟崎克彦さんがそれを短いお話として仕上げています。すごいメンバーでございましょう?
「傑作絵本」と書かれていますが、そうね、「傑作写真絵本」かな。女の子を撮らせたらピカイチの沢渡朔さんの写真が土台ですから。伸びやかな肢体の若く美しい女の子です。せっかく沢渡朔さんなので、もっと小さな女の子でもよかった、かもしれません。そこはそれ、その人の持つ天使のイメージによるのでしょうか。 ん~(妄想中)、もしもこれが若く美しい男の子だったら、まったく同じ内容で違う味わいになっただろうなー。セットで出せばよかったのに(注:妄想です)。 ともかく面白い試みで、なんでこんなこと思い付いたんだろう? そこが知りたい、ちょっと好事家向けのレアモノなのでした。
→天使つながり
→合作ランキング


▼心ふるえる物語。

ノーストリリア 『ノーストリリア―人類補完機構 ハヤカワ文庫SF』(コードウェイナー・スミス 浅倉久志訳/早川書房)

まずは、あらすじに降参です。 「<人間の再発見>の第一世紀。銀河随一の富める惑星ノーストリリアで、ひとりの少年が地球という惑星を買いとった。少年は地球へやってきて、なみはずれた冒険を重ねたすえに、自分のほしいものを手に入れ、ぶじに帰ることができた。お話はそれだけだ。さあ、これでもう読まなくてもいい。ただ、こまかいところは別。それはこの本のなかに書いてある。ひとりの少年が出会った真実の恋と、手に汗にぎる冒険の日々が…(あらすじより)」。素晴らしいでしょう? 誰が書いたの?書いた人に惚れる、と思ったら、作品冒頭部分からの引用でした。著者コードウェイナー・スミスさんが書いてる。期待は高まり、その期待ははずれません。

今から恐らく1万5千年後の世界。 場所はオールド・ノース・オーストラリアという星。通称ノーストリリア。そこで飼われる奇形の羊からは不老長寿の薬「サンタクララ薬」がとれる。おかげでノーストリリア人は宇宙一のお金持ち。しかし彼らは、自ら輸入品にべらぼうな関税をかけることで一切の贅沢を排除、昔風の生活を守っています。人口問題の対処にはさらに厳しい戒律があり、基準に達さない子供は「死の庭」へと送り出されます。

登場人物はみな魅力的です。コンピューターまでもが魅力的です。主人公のマクバン家に伝わる、一族の者にしか見えない館にあるコンピューター。と書いただけで、そこには物語があります。なぜ見えないのか、建立の歴史から語られます。それは説明のための説明ではありません。理論ではなくロマンがあるのです。著者はその世界のあらゆることを語ることに楽しみを覚えている様子で、ぎゅうぎゅうにつまったイメージが次々に読者に供されます。それをじっくり味わうために、少し時間はかかりますし、例えば地球一美しい猫娘の登場等は、想像力を試される箇所だとは思いますが、たとえSF嫌いの人でも、このロマンを読み逃すのはもったいなさすぎ! ロマンを愛する人なら大丈夫! おすすめです。
→羊つながり


▼静かな面白さ。

柳宗理エッセイ 『柳宗理エッセイ』(柳宗理/平凡社)

意外な面白さがある本です。有名人気デザイナー柳宗理さんのエッセイ、デザイン論などを収録。書下ろしはなく、すべて雑誌や新聞、書籍に掲載されたものの再録です。 「デザインとは何か」「デザインが生まれる瞬間」等の章では、デザイン考を展開しておられるわけですが、一般人が読んでも分かりやすく、興味深いです。 どんなジャンルでも、その道の達人の文章はわかりやすく、難しい言葉で煙に巻いたりはしません。「本当の美は生まれるもので、つくり出すものではない(本文より)」。単純でいて奥行きのある言葉が使われています。


特に目で見て楽しめるのは「新しい工藝生きている工藝」の章。雑誌「民藝」に連載したものだそうです。「機械製品でも、民藝の心を持てば、必ず素晴らしいものになり得るということを、これから毎号、この頁を借りて執拗に論じ、叫び、その例をここに続けて挙げていきたいと思う」、その言葉通り、彼が心を留めた品、一つ一つを紹介。卓上セロファンテープ・カッター(デンマーク製)、ウィルキンソンの剪定鋏、白磁の角鉢、ピッケル(スイス製)、野球のボール、自転車のサドル…。そんな品々。全49品。 「これらは余りにも普段に使われておりますので、この美しさについては、余り人が気が付かないのかもしれません(「自転車のサドル」の項より)」。なるほど~と、新しい価値観に目を開かれる本。一度、柳宗理の目になってみたい。きっと世界は美しいもので満ちているに違いありません。
→自転車つながり


▼夢の教科書。

いっしょにつくろう 絵本の世界をひろげる手づくりおもちゃ 『いっしょにつくろう 絵本の世界をひろげる手づくりおもちゃ』(高田千鶴子他/福音館書店)

子どもの頃、物語に出てくる何かが欲しくて自分で作ったことはありませんか? 私は、何かの鍵とか、地図とか、首飾りとか、作った記憶があります。もちろんまったく巧く作れないんだけど、そこは想像で補って。作れないもの(美貌や衣裳)は、ひたすら妄想していましたっけ。 そんなフィクションにどっぷりの幸せな子ども時代を送った方、仲間です(握手)。そして、今はお子様がいる方、注目です。 本書は、恐らく絵本界の超人気アイテムの作り方を教えてくれます。ぐりとぐらのお人形。おだんごぱん。金のがちょう。エルマーとりゅうのりゅうの子のお人形。ダンボールで作る宝島のトランク(地図入)。などなど14個。 トランク!地図!を最高の興奮アイテムと感じる私としては、お人形が多いのがちょっと残念。もっとガラスの靴とか、魔法の鏡とか、時計とか、羽根ペンとか、作って欲しいなぁ。お料理も1つぐらい入ってても良さそうです。 でもお人形の先生には高田千鶴子さんや酒本美登里さんも居て、あの手袋人形を見た時の興奮を味わえますよ。 夏休み、お子様と作って、狂気乱舞させてあげてほしいです。
→ミニ特集 夏休みの思い出
→鞄つながり
→地図つながり


▼ファンタジック怪奇小説。

イルーニュの巨人 『イルーニュの巨人 創元推理文庫』(C・A・スミス 井辻朱美訳/東京創元社)

紹介文がすごいです。 「『空前絶後の作家』とラヴクラフトが讃嘆した怪奇小説の鬼才C・A・スミス(あらすじより)」だそうです。空前絶後の作家かぁ。わたくし、じつはファンタジーに対する造詣が非常に浅く、存じませんでしたが、そんなことを言われては捨ておけません。 幻想性と怪しさを兼ね備えた作風。そしてファンタジー味をプラス。ファンタジー嫌いも読んで損はないと思います。剣と指輪と魔法は苦手でも、これなら読めるはず。むしろこの味わいを探してたのよ、こういうところにあったのか、と私は思いました。 「そのあまりある短編の中からとびきりの傑作をえりすぐった」「巨匠の織りなすアラベスクとグロテスクはいかなる悪夢も及ばぬ恐怖と幻想の王国へ読者を連れ去るであろう」(あらすじより)だそうで、その中にはSFっぽいもの『はかりがたい恐怖』やバカっぽいSF(失礼な)『夜の怪物たち』や、ややありがちな名画モノ『柳のある風景』等もあるものの、私的には『マルネアンの夜』、『イルーニュの巨人』がオススメです。 訳文次第では、久生十蘭 、香山滋、夢野久作あたりに似てくる可能性があると思います。泉鏡花の名前も外せないところでしょう。「わが恋は人とる沼の花あやめ」って、C・A・スミスやラヴクラフトに教えてあげたい。喜ぶと思うんだけどな。


▼初心者にも有段者にも。

水の女 溟き水より 『水の女 溟き水より(From the Deep Waters)』(トレヴィル発行、リブロポート発売)

マーメイド、セイレーン、水辺、船上、水中の女、すなわち「水の女」を集めた画集です。 例えば、クリムトは「海蛇」と「金魚」を収録、と言えば分かりやすいでしょうか。 他にウォーターハウス、バーン=ジョウンズ、アーサー・ヒューズ、ドレイバー、ベックリン、レイトンら。全44点収録。全カラー。 カバーはレイトン卿の「漁師とセイレーン」。 帯に「ラファエル前派や世紀末の画家たちが描いた、19世紀ロマン主義の官能と退廃」とあります。 ラファエル前派がいかなるものか判然としないワタクシのような未熟者にも見て分かりやすい官能美で、 感嘆しながらただ眺めるのにもってこい。女の肌の重さと柔らかさが印象的。白さが目に焼き付きます。 初心者が眺めればお気に入り画家が増えますし、その道の方には、よくまとまった、コンセプトのある画集としておすすめできるでしょう。 トレヴィルさんは、同シリーズで『眠る女』『黄泉の女』を発行しておいでです。うん、欲しいな~。
→ミニ特集・トレヴィル(TREVILLE)


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