| ホテル暮らしは大好きです。大金持ちだったら、ホテルに住みたいです。だってどんなに散らかしても、お出かけしている間にピッカピカ。寒さ暑さ知らず。天国みたい。 小説の中のホテルのロマンって、何でしょうね? 不特定多数の人が、知り合う。その知り合い度の微妙さ加減かなぁ。よく知っているようでもあり、あまり知らないようでもある。
 結構、特殊な舞台として使われている気がします。映画プリティ・ウーマンもホテルが舞台では? この間見たビデオ「ル・ブレ」でもクライマックスはinホテルでした。宿敵と知らずに隣りの部屋に泊まってるんです。そういうの、多いなぁ。
 ▼ただのエロチック小説かと思いきや!  「幻想ホテル」 (スティーブン・シュネック 栗原行雄訳/早川書房)
 
  まず、「は、ケイ夫人が塔内のこの部屋を」で始まります。
 「は、」ですよ。
 文章の途中から始まるの。わざとなの。
 いかにもなポルノチックな始まりなので、「ちょっと奇をてらったエロチック小説か?」と思えば、さにあらず。この小説、とてもひとことでは言えないようで、寄せられた讃辞を読めば読むほど、わからなくなります。
 「ナボコフとバロウズの冒涜的な結婚から生まれた傑作である」「各シーンは羽根のくすぐりに身もだえし、構成自体はタンジールの麻薬窟を思わせる」「最高に素晴らしく、面白い軽喜劇がふんだんにある」「『裸のランチ』が好きな人間には、もってこいのごちそうだ」…
 ケイ夫人をヒロインとしたポルノの断片を挟みながら、物語を進行させる。
 いや、でも、そう言われて想像するような楽しい展開にはならないんですわ。
 確かに『裸のランチ』が好きだと胸を張って言えるような人(笑)にはいいかもしれません。
 玄人好みの<奇小説>です。
 ▼窓の物語。  「ホテル・ニューハンプシャー 上・下 新潮文庫」 (ジョン・アーヴィング/新潮社)
 
  すみません。長年の未読本です。映画だけ見ちゃいました。
 ともだちにすすめられて見た映画は、大変面白かった。
 忘れられないのは「開いてる窓の前で立ち止まらないように」
 という台詞。主人公達が何度も繰り返して言う教訓なんです。
 含蓄のある言葉で、一番印象的でした。
 映画でも窓のカットが目立っていましたが、
 よく見ると新潮文庫のカバー絵も窓。
 つづきを読む→窓つながり
 ▼ひとすじ縄ではいかんのです。  「ホワイト・ホテル」 (D・M・トマス/河出書房新社)
 
  これも凝った構成です。
 章ごとに視点を変えて書かれ、後になって、先の章が生きてくるとか、
 後の章で先の章を読み直す(語り直す)とか、
 なかなかニクイ技を使っています。
 
 主眼としては、フロイトが登場し、「白さ」にとりつかれたヒロインの精神分析を行うわけで、そこには謎解きの面白さがあるのですが、そのまま行くのかと思えば、
 沈鬱な歴史の悲劇を絡めて描き切り、ミステリー文学とでも言いたいシブい味を出している、ようです。
 
 …ホテルと名のつく小説って、なんだかシブいですね。
 ▼理想のホテル。   「ホテル Hotel」 (黒井健/河出書房新社)
 
  黒井健さんが、自分好みの宿を創ってみたんですって。
 空想の。
 それがどんな風かを描いた、それだけの約30ページ。
 私も泊まってみたい。のんびりしたい。
 
 以前、庭つながりで紹介したスーザン・ヒルの「庭の小道から」を思い出しました。
 あの本はいろんな種類の庭の魅力を描いて、最後の最後が「空想の庭」で終わってたのよね。
 →猫つながり
 →庭つながり
 他に…「恋愛ホテル」(にじゅうに) |